賃貸経営をしていると、「うちのマンション、法人化したよ。」という不動産オーナー様の話を一度は聞かれたことがあるのではないでしょうか?今回は、個人事業主が法人化するための手法と、そのメリット・デメリットについてご紹介します。
■個人事業主としての賃貸事業
一般的なオーナー様は、自ら所有している土地または購入した土地に、個人名で金融機関から建築資金の融資を受け、賃貸不動産を建築し、賃貸事業を行います。個人事業として毎年確定申告をするのですが、ある一定の所得になると所得税・住民税の負担が大きくなってきます。個人の所得税が超過累進課税という仕組みになっており、所得税と住民税を合わせて最高税率55%と高い税率が課されるからです。
■法人における法人税の課税体系
法人を設立し賃貸事業を行った場合の法人税の税率は、資本金の額によって多少異なりますが、概ね23%~38%になります。この税率の中には、法人税、法人住民税(県・市)、法人事業税などが含まれます。このように税率だけ見れば所得が多くなればなるほど、個人よりも法人の方が税率が低く節税となります。
■法人化の手法=不動産所有法人の設立
不動産所有法人の設立とは、新たに親族(配偶者や子ども)を役員とする法人を設立し、その法人に個人で所有している賃貸不動産を売却して所有権を移転させることを言います。一般的に賃貸事業の法人化(法人なり)と呼ばれるものです。土地建物両方を法人に移転する方法と、建物のみを法人に移転する方法がありますが、土地を移転するには多額のコストがかかるため、ここでは建物のみを売却して所有権を法人に移転します。建物の所有権が法人に移転しますので、その後の賃料は法人の所得となり個人の所得はなくなります。その代わりに法人は個人に対し役員報酬を支払います。個人所得は、役員報酬という給与所得になりますので、所得税がぐっと下がる事となります。
■法人化で所得の分散化
親族を役員とし法人を設立すると、それぞれの役員に報酬を出すことが出来ます。役員は社員とは異なり、社員は労働の対価として報酬を得るのですが、役員は経営責任の対価として報酬を得ることになります。一人の所得を、役員報酬という形で複数に分散することができ、かつ今後の個人の財産の増加を防ぎ個人の相続対策になります。
つまり一人に掛かっていた所得税・住民税を、法人税と複数の役員の所得税・住人税に分散することで、合算の税負担が軽減できることになります。
■法人化により計上できる経費の範囲が広くなる
個人事業では、直接的に事業にかかる費用だけを経費として計上できますが、法人化すると個人より経費として認められる範囲が広くなります。いくつかご紹介します。
①保険料の経費化
生命保険(一部)と傷害保険などの損害保険が経費として算入できる。
(個人では生命保険のみ、生命保険料控除の対象)
②役員報酬の経費化
役員報酬を経費にする事で、給与所得控除の分だけ全体として節税になります。
家族も役員として経費計上できる。
③退職金の支給
会社規定の中に、退職金の規定を設けることで、役員に退職金を支給することが可能となります。
退任時に退職金を支給する場合は退職所得控除が使え、死亡時より退職金を支給する場合は相続税の非課税枠が使えます(500万円×法定相続人の数)。
■社会保険から見た法人化のメリット
個人事業では国民健康保険への加入となり、所得が高くなるほど保険料の負担も大きくなります(最高限度額990,000円/年間)。
法人化すると役員は、協会けんぽに加入することになります。役員報酬は、当然個人事業の所得より少なくなるため、保険料負担も安くなり、またその費用は法人と個人が折半することになります。
年金については、厚生年金への加入が必須となり、その分将来受け取る年金も、そう多くはないですが増加します。
■法人化のデメリット
メリットの多い法人化ですが、やはりデメリットもあります。まず法人の設立にはさまざまな手間や時間、費用がかかります。また社会保険料の法人負担、会計処理の複雑化に伴う決算や申告などで税理士との顧問契約が必要になる事もあります。事業が赤字であっても、法人住民税は支払わなければなりません。その他にも、不動産の売却で保有期間が長期であれば、個人より法人の方が売却益にかかる税率は高くなります。
法人化を考えるにあたっては、そのタイミングや有効性、役員の選定など十分に考慮する必要があります。
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